映画「罪人たち」感想:夕焼けに目を焼かれ

映画

映画感想を記事にしなくなり久しいので、リハビリに。
映画館からの帰り道ではしみじみしながら、北海道のおふたろうに「罪人たちを見てきたよ、またせたな」とチャットを入れたりした。そんな北海道スガラムルディのおふたろうがテンションマックスで書いたネタバレ記事もとても愉快だったので併せて是非。

一応、自身のYoutubeのVlogでも話したけれど、まだ観てない人は絶対にネタバレを読まずに見に行った方が面白いので今すぐブラウザバックかわたしのエッチな写真でも見ておけ。そして映画館に行って、行ってよ、お願いだよ、再来週もIMAXで上映してほしいよ(メガロポリスが同時公開だったせいで、上映1週間を待たずにIMAXを切り上げた映画館が見受けられてショックを受けている)

「でも怖いんでしょう」とかいう人のために一応どれくらい怖いかを説明すると、おおむねパイレーツオブカリビアンくらいの怖さ+出血量が気持ち多めくらいなのでどうか躊躇なく見に行って欲しい。ほんと、パイレーツ1のが怖いから(個人の感想)

ここからネタバレを含みます
無駄に3つもクソコラを作りました

オープニングから大不穏な教会シーンで、30年代南部黒人教会コミュニティというかなり厳格で苦しい場所のなか、1人の少年が血まみれで歩いていた。異様なフラッシュバックの中に、このあとの惨劇が予感されるも、シーンはすぐに、彼らの日常シーンになる。
スタックとスモークが街に戻り、目を輝かせて酒場を準備しようとしているところから、わたしはもう切なくてたまらなかった。冒頭のフラッシュバックなんてなくても、これが続かないことがわかっていた。”彼ら”がどうなるかを知らなくても、わたしたちは歴史の続きを知っている。禁酒法は瞬く間に終わり、ニューディール政策が始まり、核戦争がはじまり、公民権運動がはじまり、時代はめまぐるしく変わっていく。
中盤では、彼らがブラックマーケットのギャングから酒を盗んでいたことも発覚する。ヴァンパイアが来なくても、KKKが来る。結果として、彼らの酒場が陽光の下でうまくいかないことはわかっていた。自由に生きることを夢見てあがいた人々の戦い、それが一晩のヴァンパイアとの戦いに変わったスペクタクル映画がこの「罪人たち」だ。

いわゆるブラックミュージックは、オーネットコールマンやさらに後の60年代以降のHound Dog Taylorくらいしか聞いてこなかったので音楽シーンの熱さはおふちゃんの感想を読んでもらったほうがいいとして。なんならこの映画でいう盗んだ側の系譜であるメラニーマルティネスとか大好きで筋トレ中よく聞いてるし。

この映画を、10人くらいにLINEで直でオススメした。いかにネタバレをしないか考えた結果「魂と音楽を震わせ自由を探してブルースを奏でる最強音楽映画でちょっとだけ血が出る奴なので映画館に必ず見に行ってください」と送り付けたりした。

そう、ただ、自由になりたいんだよなわたしたち。女の子は美人かどうかに晒されるし、親の介護とか窓際とか2000万円問題とかゆとりとか、最近血圧も気になるし。不安で眠れないし、風俗店は急に摘発されるし、景気は落ちるし、1年かかって貯めた貯金は税金で消えるし、と愚痴を言いはじめたら脱線事故が起きたので話を戻す。
ヴァンパイアの手に落ちてしまったスタックは、『生きている間ずっと自由を探し続けたが、どこにもなかった』という。『その自由は、ヴァンパイアになって手に入った』と、スモークを誘惑するのだ。このシーンで、わたしは涙が止まらなかった。
わたしは、何と戦っているのかもわからないまま、生きる上でなんだか戦いを余儀なくされてきた。繊細すぎる自分の感受性や、時おり話しかけてくる幻覚や、”そんなものは病気だ”と言い張る社会と。”抗うことをやめてしまえば楽になる”と何度考えたかわからない。その先は地獄だとしても、そっちの世界がうらやましく思うこともある。だけど、仲間が減っていく苦しみに耐えながらも、拳をにぎる力が残っている限りは、抗い続けるだろう。それをやめた時、たぶんわたしは、死ぬんだ。わたしだけじゃない、みんなそうでしょ?みんな拳を握っているでしょ?そういう人のための映画だよ。

IMAX版で印象的だったのは、サミーとスモークそれぞれの回想だ。夜明けの後のスモークがタバコを巻きながら、昨晩の楽しい準備を思い出すシーンだ。スモークの現在は16:9で映し出されるが、昨夜の輝く夕暮れはIMAX画面いっぱいに迫ってくる。一方サミーの現在は画面いっぱいに、サミーの思い出す過去は小さな画面に映る。スモークの一番輝いた時間は終わってしまった。一方サミーは、現在を生き続けることになる。震える手で選ぼうとする。先に進む。みんなにとっての一番美しい一日は、それぞれのなかで位置づけが違う。前に進むものと、その美しさに目を焼かれてしまうものに分かれた。

わたし自身、ここ一年で目まぐるしく生活がかわった。わたしだけではない。性産業従事者全員が肌で感じている。少しずつ、日が落ちていること。性を売るわたしたちの日陰ぶりは年々ましている。大好きなみんなとのこの時間がずっとは続かないこと、だんだんわかってきてしまった。それでも、ソープ嬢の伊織さんと一緒に住む話なんかしちゃってさ。楽しいね、今。わたしたちはとても自由だ。楽しみだね。

この美しい夕暮れがあとどれくらい続くのだろう。

わたしはこの夕暮れに目を焼かれるスモークなのか、朝日を浴びるサミーになるのかはまだわからない。それでも、もう少し眺めていたい。1日1日が輝いている今を。どうか本当に死ぬまで、うっかりこれが続きますよう。

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